“ミツバチのいない養蜂家”になって感じた、自然環境のこと。生き物とともに水田づくりを【シシ七十二候・西村有里加さん】

 

 
岐阜県郡上市白鳥町中西。眼下には集落、その向こうには雄大な山々を望む日当たりのいい山の中腹で、この春、鯉農法による水田づくりを再開した「シシ七十二候」の西村有里加さん。ニホンミツバチと暮らし、主にスキンケア商品などを展開するライフスタイルランド・シシ七十二候が2019年、“ミツバチのいない養蜂家”となり、肌で感じた自然環境の変化とは? そして歩みだした、“農薬を使わない水田づくり”について、話を伺いました。
 

 
― 2005年に養蜂家としてニホンミツバチとの暮らしをはじめたそうですね。
西村さん(以下、敬称略):
私たちが持っている巣箱に20~25群のニホンミツバチがいました。1つの巣箱に住む群を「1群」と呼び、1群は約15,000匹のミツバチで作られるといわれています。私たちはミツバチに気に入ってもらえるような居心地のいい巣箱を用意して、家賃として年に一度、蜂蜜を少しだけいただくという、「家(巣箱)を貸す大家さんと物件が気に入ったから住んでいる借主」のような関係性で暮らしていたんです。
 


 
―それが2019年には1匹もいなくなってしまった!?
西村:
ミツバチと暮らしはじめて数年経ったころ、急激に数が減ってしまいました。その原因のひとつが、この地域にマイマイガという蛾が大量発生し、普段より多くの殺虫剤が使われたことによるのでは、と。ミツバチをはじめ多くの種類の昆虫が減ってしまったと感じました。また、巣箱の近くの田んぼでカメムシ防除の農薬が捲かれたあとに、ミツバチの調子が悪くなったり、死んでしまったりしているのを何度か見かけることがありました。もちろん自然淘汰もありますが、年々数が減り2019年1月に最後の1群が冬を越すことができず、死んでしまいました。
 


↑母の玲子さんと一緒に「シシ七十二候」を運営している西村有里加さん。
 
―自然環境の変化を身近に感じたからこそ、“農薬を使わない農業”に興味を持たれたんですね。
西村:
私たちの信念は、“人間にとって都合のいい環境ではなく、そこにいるいろんな生き物にとって自然な環境でありたい”ということなんです。人も自然の一部。いろんな生き物がいて、木や植物が育って、人間が生きていけるのだと思います。ただ、以前こことは別の場所で8年くらい「鯉農法」をはじめ、さまざまな農法を試し、完全無農薬での米づくりにも2度チャレンジして、完全無農薬の過酷さも痛感しました…。
 

 
―どんなところが過酷だったのですか?
西村:
シシ七十二候のプロダクトづくりや店舗運営などほかの経済活動をしながらの、毎日の雑草抜き。さらに完全無農薬でなかった年と比べて収穫量も少なく、味もおいしくありませんでした。「大量生産・大量消費」の現代社会において、農薬がいかに“ありがたい”ものかを身をもって痛感しましたし、農薬を使わない農業を農家さんが選ぶことのむつかしさも感じました。今は、無農薬にこだわりすぎず、生き物や自然とバランスをとりながら、たくさんの人が楽しく取り入れられる農法を実践していけたらいいなと考えています。

 

↑7月上旬に鯉の稚魚2万匹を水田に入れました。あぜ道を歩いていると、ほかにもカエルやアメンボ、トンボ、クモなどたくさんの生き物を見つけられます。
 
―今年「鯉農法」を再スタートされましたが、「鯉農法」とはどういうものなのですか?
西村:
水田に鯉を泳がせることで土が濁って雑草が生えにくくなり、鯉の糞が肥料にもなります。農薬を使っていなかった昔は「鯉農法」をしていた農家さんも多かったと聞きますが、大変なことも多い農作業のなかで、鯉はつかの間の楽しみをもたらしてくれる存在でもあったと思うんです。
 

 
―たしかに、水田を泳いでいる鯉はとてもかわいく、見ていると癒されます。
西村:
周辺の農家さんも鯉を見るのが楽しみといった気持ちで、水田を見に来て下さる方が多いです。やはり農薬を使っている農家さんが主ではありますが、私たちは農薬があって経済活動が成り立っているのも身に染みてわかったし、農薬を使わないことを周囲に推奨する気はありません。自分たちと違う考えの人たちと関わり合いながら同じことに取り組むことで、何かが始まるんだと思うし、いい意味での「曖昧さ、適当さ」を持ちながら、これからも自然の農法を模索し、いつもの場所に巣箱を置いて、ニホンミツバチをワクワクしながら待ちたいと思います。
 

 

↑母の玲子さんは、1年をとおしてニホンミツバチとの暮らしを書き、2020年に自社で製本。2021年秋には京都国際マンガミュージアムで養老孟司さんとの対談も予定しています。
 
ニホンミツバチと暮らし、自然と向き合ってきたなかでわかったのは、「自分たちは何も知らない」ということだと話す西村さん。ただ、“人間も生き物も同じ、自然の一部”という生き方には、感じ入るものがあります。すごく清らかな場所に足を踏み入れた…そんな気持ちにさせてくれた取材でした。
 
(文:広瀬良子)
 
 

New Report

2026-05-01

FEATURE

新緑の豊田市・足助散策!森林浴と古い街並み、地元グルメ巡りで心と体を癒す旅

豊田市足助町は、かつて信州(長野県)への中継地として栄えていた宿場町。そして、全国的に知られるもみじの観光名所・香嵐渓がある町です。初夏の香嵐渓は約3,000本のもみじに青々とした葉が芽吹き...
ピーナッツ,チャーリーブラウン,スヌーピー,トムエバハート,イベント,名古屋

2026-04-29

TOPICS

悩める人の心に寄り添うアート「トム・エバハート展」5/8(金)~10日(日)

スヌーピーの生みの親であるチャールズ・M・シュルツが、スヌーピーをはじめとする『PEANUTS™︎』キャラクターを使ってアートを表現することを世界で唯一認めた画家、トム・エバハ...
珈琲回遊,半田,珈琲,イベント,半田赤レンガ建物

2026-04-24

TOPICS

20店以上の珈琲を飲み比べ「珈琲回遊」4/29(水・祝)

東海エリアのコーヒーショップやバリスタが20店舗以上集まり、コーヒーの飲み比べやペアリングスイーツ・フードを楽しめるイベント「珈琲回遊」が、2026年4月29日(水・祝)に半田市の半田赤レン...
ムーミン,トーベとムーミン展,名古屋,松坂屋美術館

2026-04-18

TOPICS

トーベ・ヤンソンの創作世界「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」4/25(土)~6/14(日)

『ムーミン』小説の出版80周年を記念した展覧会「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」が、2026年4月25日(土)~6月14日(日)に名古屋・栄の松坂屋美術館で開催されます。 ...
カレー,イベント,スパイスカレー,名古屋,食べ比べ,人気店

2026-04-16

TOPICS

バリエ豊かなカレーを堪能「TOKAI カレーなるフェス」4/29(水・祝)~5/4(月・祝)

近年人気のスパイスカレーをはじめ、愛知・岐阜・三重の有名カレー店、他エリアのカレーイベントの人気上位店など、30店舗以上が出店する中部地区最大級のカレーの祭典「TOKAIカレーなるフェス」が...

2026-04-14

TOPICS

日本三大山城夜景「岐阜城パノラマ夜景」4/18(土)・19(日)、4/25(土)~5/6(水・祝)

2025年12月に仙台城跡、松山城とともに「日本三大山城夜景」として新たなブランドを立ち上げた「岐阜城」。戦国武将「斎藤道三公」、「織田信長公」が築いたまちの夜景を見渡せる場所として、今後注...
浮世絵,歌川国芳,展,名古屋,愛知県美術館

2026-04-11

TOPICS

奇怪で粋な浮世絵ワールド「歌川国芳展ー奇才絵師の魔力」4/24(金)~6/21(日)

江戸時代後期に活躍した浮世絵師・歌川国芳の全貌に迫る「歌川国芳展―奇才絵師の魔力」が、2026年4月24日(金)~6月21日(日)に名古屋・栄の愛知県美術館で開催されます。 斬新な発想...

2026-04-09

書店員の本棚

親子で読みたい!新生活を応援してくれる絵本3冊:名古屋市南区「ブタコヤブックス」

愛知県名古屋市、名鉄「本笠寺」駅から徒歩2分の場所にある書店「ブタコヤブックス」。2025年7月にオープンした新刊書店です。小学校教員として16年勤めたのち書店を開業した店長の船張真太郎さん...

2026-04-07

TOPICS

巡回展が名古屋からスタート!「NHK大河ドラマ特別展 豊臣兄弟!」4/18(土)~6/14(日)

「彼が長生きしていれば豊臣家の天下は安泰だった」とまで言わしめた豊臣秀長の目線で、戦国時代をダイナミックに描く2026年NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」。ドラマと連動し、これまであまり光の当た...

2026-04-06

TOPICS

瀬戸のやきもの文化を体感!「Land of Pottery -瀬戸体感陶器市-」4/18(土)・19(日)

瀬戸と瀬戸焼を体感できるイベント「Land of Pottery -瀬戸体感陶器市-」が、2026年4月18日(土)、19日(日)に旧瀬戸市立深川小学校で開催されます。 展示販売だけで...

2026-04-03

シーズントリップ

話題の新スポットも続々オープン!愛知・岐阜・三重の最新グランピングスポット2026

これからの季節に楽しみたいグランピング。2026年3月に東海地方で初めてツリーハウスに宿泊できる施設が三重県菰野町にオープンするなど、注目スポットも増えています。そんな話題のスポットを中心に...
pagetop
もくじ