“逆に閉じれば、大切な車内が濡れずに済むのでは”という今までにない発想のもと、歯科技工の技術を生かして誕生した、逆さに開閉する傘「GAX Umbrella」。手がけるのは、愛知県春日井市にあるユートレーディングコーポレーションです。
後編では工房に潜入。通常の傘に使用される約3倍にもなる99個ものパーツを手で一から組み付け、職人が丁寧に傘布を縫い上げて完成するという制作工程を紹介します。
↑ 開いた姿は従来の傘と同じ。機能性とデザイン性を兼ね揃えたアイテムです。
99個のパーツを、すべて手作業で組み付け
「GAX Umbrella」の逆に開閉するという複雑な骨の動きを支える99個のパーツは、春日井市の工房へ集約した後、その1つひとつを職人が手に取り、検品していきます。「複雑な動きをする機構で、パーツひとつひとつの組み付け精度が要求されるため、自社工房で一から組み付けています」と語るのは、ユートレーディングコーポレーションの広報・営業を担当する渡辺わかさん。
↑ 春日井市の工房で、「GAX Umbrella」の製造工程を丁寧に説明してくれた渡辺さん。
パーツは、大きく負荷がかかる部分には銃で撃っても穴が開かない程の強靭なポリカーボネートという素材を練り込んだり、傘の布地を広げる親骨には軽量で強度のあるカーボンファイバーを使用するなど、部位によって材料を変えているのだそう。
「99個ものパーツが複雑な動きをするため、一つひとつの動作がスムーズに動くよう職人が微調整を行っています」。パーツを接合したら、その都度動かして確認するという作業を繰り返し行い、すべてのパーツを組み付けていきます。
↑ 力加減を調整しながら、1つずつ丁寧に接合していきます。
↑ 軽量のカーボンファイバーを使用した親骨部分。骨が複雑にリンクし、美しいフォルムに傘が開きます。
高い縫製技術を用いて、1本ずつ縫い上げていく
傘布はミシン職人が工房内で縫製。「1mmでもずれると、傘を広げた時の張り具合が変わってきてしまうんです」と渡辺さん。2枚に重ねた傘布は、内側の布のみ輪郭部分をカーブさせ、外側の布が見えるようデザインされています。カーブさせながら縫い上げていくには、より高い縫製技術を要するのだそう。
骨に傘布を取り付けるのも、すべて手作業。2枚の布地を重ねながら、布に穴が開かないよう、細いマチ部分に慎重に針を通していきます。「ちょっとでも穴が開いてしまうと雨が入ってきて濡れてしまうため、集中して作業を進めます」。
↑ 内側の布をカーブさせることで、2色のコントラストが楽しめるデザイン。
↑ 傘布の端にミシンで三つ巻き縫いを施します。内側の布はカーブしながら同じ幅になるよう縫い上げていくため、難しいのだそう。
↑ 縫製職人の日坂喜子さん。培ってきた指の感覚で、どの傘の傘布の張り具合が均一になるよう調整しながら縫い上げます。
さまざまなシーンを想定し、利便性も追求
職人が持つ高度な組み立てや縫製技術を経て完成する「GAX Umbrella」。99ものパーツの複雑な動きを実現させるためには、時間はかかってでも職人の繊細な手作業が必要不可欠なのだそう。
また、「便利なだけではなく、使いやすさも重視して開発を進めました」と渡辺さん。「GAX Umbrella」は、人が安定して握れるハンドルの太さに設定。傘が不意に開かないようダブルロックも採用し、機能性にプラスしてさまざまなシーンでの利便性を追求しています。
↑ 2つのロックを解除しないと動かない設計に。かわいらしいイラストを入れるなど、細部までデザインにこだわっています。
↑ ダブルロック機能は、車内だけでなく、バスや電車などの公共交通機関など、さまざまなシーンで不意に傘が開いてしまうことを防いでくれます。
消費者が驚くような革新的なアイテムを開発していきたい
開発から量産できるまで10年もの歳月がかかった「GAX Umbrella」。「従来にないものを生み出すことはとても労力がかかることですが、大きなチャンスでもあると思いました」と渡辺さんは話します。
ユートレーディングコーポレーションは、「GAX Umbrella」で、“デザイン界におけるオスカー賞”とよばれる「iFデザインアワード2016」において、「iFデザインアワード プロダクト部門」を受賞。「『GAX Umbrella』を通して、日本のものづくりの素晴らしさを世界に伝えることができ、とても嬉しかったです。今後も消費者の方があっと驚くような革新的なアイテムを生み出していきたいです」。
↑ すでに新しい商品の開発を進めているという渡辺さん。どんなアイテムが誕生するのか、楽しみですね!